2012年7月8日日曜日

「公平である」ことについて

科学において,「合理的」で「公平な」判断をする,というのは非常に重要なことである.
ところが,それはむずかしいんだよ,ということが言われる.
バイアス,というやつである.

バイアスの研究は,TverskyとKahnemanによって,多くなされている.
彼らの前には,「合理的選択の理論」というのがあった.

ここに書いてある議論の多くは,伊勢田哲治「疑似科学と科学の哲学」から引用している.



バイアスについて,まずは,「典型的なものの頻度を実際以上に評価してしまう」という代表性バイアスがある.
例として,賭博師の誤謬というものがあげられる.
ルーレットにおいて10回赤が出続けた時に,「次は黒が出る可能性のほうが高い」と思う,というようなものだ.
もちろん,ルーレットにおいては一回一回同じ確率で,「赤」と「黒」が出る.「赤ばかりの配列」よりも「赤と黒が混じった」配列のほうがより典型的であるためにこのような思い込みが起こる.


次に,「すぐ思いつくもの,目に付くものの頻度を実際より高く評価する」利用可能性バイアスがある.
たとえば,英単語のうち,rという文字が1文字目に来るものと,3文字目に来るものはどちらのほうが多いだろうか.
Kahnemanらの研究によると,1文字目,と答える人のほうが多かった.


オペラント条件づけ」と「迷信的思考」は関係している.
お守り,とかゲン担ぎ,とかがこれに当たる.
ハトやマウスにおいて,餌を与える際に動物ののある行動と関連付けて与えると,その動物はその行動を繰り返し行うようになる.この行動は(餌においてではないが)人間でも観察されている.
人間の場合,これに不確定要素を導入したときに(確率的変動など),迷信的連関付けが行われることがわかっている.


基礎比率の無視
これを説明するには,「感染者問題」と呼ばれる問題がある.
以下のようなものだ.
「乳がんの発症率は1%である.患者が乳がんを患っている場合,検査で陽性反応が出る確率は80%である.患っていない場合,陽性反応が出る確率は,10%である.このとき,検査で陽性反応が出た時に,患者が乳がんを患っている確率はどのくらいだろうか?」
ベイズ定理に基づけば,この確率は,
$$\frac{0.01 \times 0.80}{0.01 \times 0.80 + 0.99 \times 0.10} = 0.074$$
となり,約7.5%である.
Eddy(1982)の研究によれば,多くの実験協力者の直感的判断は,75%前後になる.
これは,「条件付き確率」80%に引きずられているためだと考えられる.
この際に,「基礎比率」である「乳がんを患っている」1%を無視してしまうのである.


「今持っている仮説に都合の良い証拠を探したがる」という検証バイアスというものもある.被験者に曖昧さの残る証拠を与えたとき,被験者が念頭に置いている仮説と一致するものはあまり吟味されずに受け入れるが,仮説と矛盾する証拠は厳しく吟味する,というものである.


また,他人の影響もあり,Aschの同調実験という実験でそれが確かめられている.自分以外のすべての被験者が(サクラ)誤った答えを一致して言うと,その答えに引きずられる,ということが知られている.


このように,多くの要因が,公平な判断を阻害していることが理解できるかと思う.


あすは,「ラベリングについて」再考したいと思う.
いつの間にかまた$$LaTeX$$が使えなくなっている…かなしい.
デザインを一新したからなのだろうなぁ…ヘッダに入れてたんだっけ…

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参考
疑似科学と科学の哲学
確率を用いた推論課題における回答方略の検討

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