しかし,僕は歴史の捏造というものは,「先入観」や「ラベリング」によって起こるものだ,ということが言えるのではないか,と考えているのだ.
今日は,二つの例をもとにして,これを話したいと思う.
ひとつは,「ルワンダにおける虐殺」で,もう一つは「ギリシャ古代彫刻」の例である.
ルワンダにおける虐殺については,ルワンダの教育大臣と大使の講演を聞く機会があり,その時に勉強したのだけれども,それが報じられた当時,原因となっているのは「フツ族」と「ツチ族」の対立とだ言われていた.しかし,この「民族」同士には本質的差異はなく(遺伝的な差異も認められないという),むしろ「政治的立場」や「生業」によってベルギーなどによる「植民地支配」のやりやすさのために分割されたとされる.植民地経営においては,「フツ」と「ツチ」という民族は別のものである,というような教育がなされたという.
これは「ハム仮説」に基づいているが,ハム仮説は優生学的な考え方に基づいている.
また,この「ハム」というのは創世記におけるノアの3人の息子のうちの一人である.残り2人はセム,ヤペテである.
優生学の根拠の無さについては機会があれば触れることにしたい.
この虐殺は1994年に起こったもので,100日足らずのうちに50万人以上が殺された,というもの.映画「ホテル・ルワンダ」では「ゴキブリどもを殺せ!」などとラジオががなりたてていたのが印象的だった.(いや見るべきところはそこじゃないと思うけれど
殺害されたほとんどが「ツチ」だったといいますが,フツの人たちもいて,「民族対立」というよりはむしろ「政治的対立」が民族対立というラベルで「上塗りされた」ものだと考えることができる.
話が大分それたけれども,ラベルの話としては,「フツ」と「ツチ」の話で,「与えられたラベル」に「従う」ということがありえる,という話をしたくて,この話をしたのであった.
次に,与えられたラベル,という見方で,「大英博物館におけるギリシャ彫刻の改竄事件」を見ていきたいと思う.
本当はルワンダの話をラベリングに「絡めて」する予定だったのだが,それを練っていた時に,NHKスペシャルが背後でやっていて,その内容に寄ろう,と考えたのであった.
内容に関しては参考4を当たってほしい.
簡単に書く.
かつて,ギリシャ芸術はエジプトや西アジアの影響を受けていたことが知られていたという.
しかし,古代ギリシャ芸術に関してWinckelmannは1700年代に「ギリシャ芸術は人類が到達した最高の美」であり,「ヨーロッパの目指すべきはギリシャの模倣である」とした.
その考えは,19世紀にヨーロッパに訪れた古代芸術ブームに対して,ギリシャ芸術が「白い文明で」「純粋で高度なものだ」というイメージを与えたという.
そんな中,古代ギリシャは西洋に権威を与える格好の存在で,ヨーロッパのルーツとして設定され,そう教育されたという.
また,ヨーロッパ(特に英国)では,ヴィクトリア女王のウェディングドレスによって「白」ブームがおき,ギリシャは「純粋」「白」の象徴的存在とみなされるようになったという.
1938年に大英博物館のスポンサーだったDuveen卿は,ギリシャから持ってこられた大理石の彫像(エルギン・マーブル)を,作業員に銅へらなどを用いて「磨かせた」という.この結果,彫像は(くすんだ色の)表面が削られ,彫刻は白くなめらかになったという.表面には「浮き彫り」があったにもかかわらず,それは失われたとも.
これは,観客の「ギリシャは白いものだ」という考えに迎合し,その望むものを作らせたと言われる.
しかし,実はギリシャの芸術は,むしろ色がふんだんに使われており,ギリシャ人は大理石をキャンパスに用いていたということが「(再)発見」されてきている….
という内容だった.
番組における論理の順番は逆だったりするけれども.ともかく,「ギリシャは白い」というラベルに対して,現実を曲げて「そうである」と言ったことが(博物館でさえ!)あった,という事実には,とても興味深く見入ったのだった.
以上二つを見てきたが,「歴史」は「ラベル」によって改竄可能である,ということが言えるのではないか.
「ラベリング」は「中身」の性質を変えることもあるのか,たとえば「血液型」などというものに対して作用するか,という話もできるかと思うが,また後の機会があれば,しよう.
「バイアス」なども十分に関わってくるだろう.
・ジェノサイドはいじめと通じるところがあると思う.もうちょっと知りたい.
・RPFって物理の人が言うとRichard P. Feynmanなのよね…
参考
1.ルワンダの紛争とエスニシティ
2.ルワンダの虐殺から考える 東京大学学術俯瞰講義 2007.6.19 - 武内進一
3.NHKスペシャル - 知られざる大英博物館 第2集 古代ギリシャ "白い"文明の真実
4.西 村 洋 子 の 雑 記 帳 (16)
5.British damage to Elgin marbles 'irreparable' - Helena Smith / The Guardian 1999/11/12
6.Elgin Marbles - Wikipedia
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